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TAMA市民塾 第八回【おばけ絵➊】


納涼!『おばけ絵』読み解き その壱



いよいよ関東地方も梅雨明けも間近となった文月拾六日(7/16)。

この日から二回は、納涼企画として江戸で大ブームを起こした『おばけ絵』の読み解きを行いました。


テキストに使用したのは、早稲田大学デジタルアーカイブ所収の鳥山石燕(佐野豊房) 著画『百鬼夜行拾遺(ひゃっきやぎょうしゅうい) 上之巻』です。


【書誌情報】

百鬼夜行拾遺

(ひゃっきやぎょうしゅうい) 上之巻

別名: 百鬼拾遺  今昔百鬼拾遺 

鳥山石燕(佐野豊房) 著画  安永十(1781)

早稲田大学デジタルアーカイブより


90分かけてゆっくり読んでいこう…って思ってたら、みなさんの学習意欲がすごく…(^_^;)この回はリクエストによりあらかじめ上記データのネットでのありかを公開していたため、しっかり予習されていた方が複数いらして、読み解きが恐るべき速さですすみました


その結果、次の回で読むはずの与謝蕪村の化物絵巻も途中まで読んじゃいました。


でも上記、蕪村絵巻の読み解きは編集上、補遺として次の回にまわしますm(_ _)m

何卒ご了承ください。


では、ひと見開きずつ読み解いてまいります!


■見開き1  蜃気楼

史記の天官書にいハく 海旁蜃気ハ楼台に象ると 云く蜃とハ大蛤なり 海上に気をふきて 楼閣城市のかたちをなす これを蜃気楼と名づく 又海市とも云


※蜃気楼の語源。司馬遷が編纂した漢の歴史書「史記」の天文・気象の巻「天官書」に登場。


■見開き2-1 燭陰

山海経に曰 鐘山の神を燭陰といふ 身のたけ千里 そのかたち人面龍身にして赤色なり と 鐘山ハ北海の地なり


※伝説の生物を多数採録した古代の地理書に登場する龍神。

 北方の仙界(異世界)の神とされ、オーロラの化身という説も。


■見開き2-2 人面樹

山谷にあり その花人の首のごとし ものいはずしてたゞ笑ふ事しきりなり しきりにわらへバそのまゝ落花すといふ


※中国の古典『三才図会』などによれば、南西千里の先にある「大食国(だいししこく)」にあるとされる。


■見開き3-1 人魚

建木の西にあり 人面にして魚身足なし 胸より上ハ人にして下は魚に似たり 是氐人国の人なりとも云


※建木は、天地の中心にそびえる伝説の巨木。氐人国は山海経に登場する伝説の国。

 かつて青海省周辺に実在した氐族(ていぞく)とは異なる。


■見開き3-2 返魂香

漢武帝李夫人を寵愛し給ひしに 夫人ミまかり給ひしかバ 思念してやまず 方士に命じて返魂香をたかしむ 夫人のすがた髣髴として烟の中にあらハる 武帝ます〳〵かなしミ詩をつくり給ふ


是耶非耶立而望之 偏娜々何冉々 其来遅

しかひかたちてこれをのぞむ ひとへにだゝたり なんぞ ぜん〳〵として それきたることおそきヤ


※唐の詩人白楽天の樂府詩『李夫人』(『白氏長慶集』巻四・諷喩四)による。

 娜々:なよやかな。冉々:ゆっくり動くさま。


■見開き4-1 彭侯(ほうこう)

千歳の木にハ精あり 状黒狗のごとし 面人に似たり 又山彦とハ別なり


※樹齢千年以上の木に取り憑く精霊。木霊(こだま)。


■見開き4-2 天狗礫(てんぐつぶて)

凡深山幽谷の中にて 一陣の魔風おこり 山鳴谷こたへて 大石をとばす事あり 是を天狗礫と云 左傳に見へたる宋におつる七ツの石もうたがふらくハ是ならんかし


※中国の歴史書『春秋左氏伝』に、五つ(本テキストでは七つ?)の流れ星が礫となって宋の都に落ちた、

 との挿話あり。


■見開き5-1 道成寺鐘

真那古の庄司が娘 道成寺にいたり 安珍がつり鐘の中にかくれ居たるをしりて蛇となり その鐘をまとふ この鐘とけて湯となるといふ 或曰 道成寺のかねハ今京都妙満寺にあり その銘左のごとし


紀州日高郡矢田庄

文武天皇勅願所道成寺冶鐘 

勧進比丘別当法眼定秀檀那

源万壽丸弁吉田源頼秀合山

諸檀越男女大工山願道願小

工大夫守長延暦十四年乙亥

三月十一日


※安珍清姫伝説にもとづく。能/浄瑠璃の『道成寺』、歌舞伎/舞踊の『娘道成寺』などでも著名。


■見開き5-2 燈臺(台)鬼

軽大臣遣唐使たりし時 唐人大臣に唖になる薬をのませ 身を彩り頭に燈台をいただかしめて燈台鬼と名づく その子弼宰相入唐して父をたづぬ 燈台鬼涙をながし指をかミ切り血を以て詩を書して曰


我元日本華京客 汝是一家同姓人

為子為爺前世契 隔山隔海変生辛

経年流涙蓬蒿宿 遂日馳思蘭菊親

形破他郷作灯鬼 争帰旧里寄斯身


我は元日本華京の客 汝は是れ一家同姓の人

子となり爺(おや)となる前世の契り

山を隔て海を隔て変生つらし?

年を経て涙流るは蓬蒿の宿

日を遂ひ思ひを馳せ蘭菊の親

形は他郷に破れて灯鬼と作(な)る

争(いか)でか旧里にかへりてこの身を寄せん。


※初出は鎌倉時代の軍記物語『源平盛衰記』『平家物語』。中国にも同様の説話が存在するとのこと。


■見開き6-1 泥田坊

むかし北国に翁あり 子孫のためにいさゝかの田地をかひ置て 寒暑風雨をさけず 時々の耕作おこたらざりしに この翁死してより その子酒にふけりて 農業を事とせず はてにハはこの田地を他人にうりあたへけれバ 夜な〳〵目の一ツあるくろきものいでゝ 田かへせかへせとのゝしりけり これを泥田坊といふとそ


※初出不明。石燕自身の創作か。


■見開き6-2 古庫裏婆

僧の妻を梵嫂といへるよし輟耕録に見えたり

ある山寺に七代以前の住持の愛せし梵嫂その寺の庫裏にすみゐて 檀越の米銭をかすめ 新死の屍の皮をはぎて餌食とせしとぞ 三途川の奪衣婆よりもおそろしおそろし


※中国明代の随筆『輟耕録』自体には妖怪化した女性の記述はないとのこと。

 本来妻帯禁忌の仏僧を風刺した創作説、鬼や恐ろしいものの喩えに用いられる「むくりこくり」との関連説あり。


■見開き7-1 白粉婆

紅おしろいの神を 脂粉仙娘と云 おしろいばゝハ 此神の侍女なるべし おそろしきもの しハすの月夜 女のけはひと むかしよりいへり


※脂粉仙娘は紅や白粉の神格化(国産?)。白粉婆は奈良県や石川県の伝承による。前者では鏡をじゃらじゃら

 ひきずって来るとされ、後者では降雪の時期に食物の施しを求めて里に下りる雪女の一種とされる。


■見開き7-2 蛇骨婆

もろこし巫咸国(ふかんこく)ハ女丑の北にあり 右の手は青蛇をとり左の手は赤蛇をとる人すめるとぞ 蛇骨婆ハ 此国の人か 或説に云 蛇塚の蛇五右衛門といへるものゝ妻なり よりて蛇五婆とよびしを訛りて蛇骨婆といふと 未詳


※巫咸国は中国の伝説上の国。


■見開き8-1 影女

ものゝけある家にハ 月かげる女のかげ 障子などにうつると云 荘子にも罔両と景と問答せし事あり 景ハ人のかげにて 罔両ハ景のそばにある微陰なり


※『荘子』内篇の「斉物論篇」による。罔両(もうりょう:影の外側の薄影)が景(かげ)に問いかけ、さらに

 その本体である形(からだ)に対して「どうして先ほどはうつむいていたのに今は仰向けになり、座っていた

 のに立ったのか」など、存在の変化や主体性を思索する挿話。


■見開き8-2 倩兮女(けらけら女)

楚の国宋玉が東隣に美女あり 墻(かき)にのぼりて宋玉をうかゞふ 嫣然(えんぜん)として一たび笑へば 陽城の人を惑せしとぞ およそ美色の人情をとろかす事 古今にためし多し けらけら女も 朱唇をひるがへして多くの人をまどはせし淫婦の霊ならん□←か?


※宋玉は、中国古代の四大美男のひとりで『登徒子好色赋』をものした文人。彼の「自分は決して好色ではないの 

 に、隣家の美女に三年間生垣から覗き込まれ、誘惑された。だが一度も心を動かさなかった」との発言の記録が

 引用されている。


■見開き9 煙々羅

しづが家のいぶせき蚊遣の煙むすぼゝれて あやしきかたちをなせり まことにうすものの風に やぶれやすきがごとくなる すがた なれば 烟々羅(ゑんゑんら)とハ  名づけたらん


※「羅」は薄絹(うすぎぬ)のこと。炎からたちのぼる薄絹のような煙がたなびく中に、人の顔のような影を

  見る、そのような現象から「煙の精霊」として描かれる。初出不明。



ご参考になれば幸いです。

 
 
 

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